専門商社の100年後を決めるのは何か?

「いわゆるパブリックリレーションズ(PR)を当社は軽視してきた」――。

そう話すのは菱洋エレクトロの中村守孝社長だ。同社は1961年に半導体販売商社として誕生し、現在では半導体ビジネスとソリューションビジネス( ICT & IOT ) の2つの事業基盤を柱にしている。2017年に中村守孝社長を迎え、ほぼ同時期にそれまで「軽視してきた」というPRをネットワークコミュニケーションズに相談するようになった。

PRに必要なのは「戦略」だ

PRとは何か。日本パブリックリレーションズ協会によるとPRとは「組織とその組織を取り巻く人間(個人・集団・社会)との望ましい関係をつくり出すための考え方および行動のあり方」とある。一般的には会社などの組織が社会に対して何らかの情報を発信し、関係性を作っていくいわゆる広報を想定する場合が多い。

こうしたPRを中村社長は「会社としてこれまで軽視してきた」という。「(菱洋エレクトロの事業形態である)商社という業種は“黒子”ですから、企業ブランドとして認知や理解を得にくいとこともあります」

そんな“社風”を中村社長が変えた。「当社のいろいろな事業や経営に対する考え方、コーポレートスローガンなどを含めて、きちんとした発信をしよう」。ただやり始めてみたもののそんな簡単にはいかない。従来からの紙メディアへの情報発信だけでなく「菱洋はIT企業の端くれですから」とまずはWebページを刷新してみたりしたが反響は乏しかった。

場当たり的なPRではなく、戦略的なPRが必要だった。中村社長はこういう。「菱洋をしっかり理解した上でのPR戦略が急務だった。新聞や雑誌といった紙メディアだけでなくネットメディアも普通に使うべき。その際の『どういう情報をどう発信するか』というコンテンツ×メディアの組み合わせには「プロ」のノウハウや、メディアの選択なり露出の仕方に対するプロとしてのアドバイザーが当社には必要だった」

そんなタイミングで出会ったのがネットワークコミュニケーションズ(NWC)の岡田直子代表である。

社長の参謀になる部署をどう作るか

中村社長は「今の菱洋は経営改革中です」という。社長直轄の「マーケティング・コミュニケーション推進部」を設置したのもその一環である。そして責任者に女性を据えたのだった。

「NWCも女性の経営者(=岡田社長)で、かつ当社にも女性の責任者がいる。男性の感覚で凝り固まっていたところに、権限を持った女性同士のチームで打破していく」というわけだ。

こうした取り組みは社外だけではなく、社内へのアピールにもなった。「会社の中でも少し部門が違うと何をやってるかわからない人は山ほどいる」と中村社長。「内外への情報の発信と収集」と「女性の活躍推進と女性目線」という2つの意味でとても効果的だった。「彼女たちに情報が集まってきて、彼女たちが情報を発信していくという一連の流れが重要だ」という。

一元的な情報管理と情報発信の体制を作ったことによって、それぞれの部署を情報という切り口で横断的に見られるようになったのは経営的にも成果だ。社内を縦横無尽にワークしているマーケティングの部署があるのは社長の参謀機能としても効果がある。「実はとてもビジネスがやりやすくなった」

こんな成果を影で支えたのがNWCだ。外部のパートナー企業はどこか腰が引けた取引をしがちだが、ネットワークコミュニケーションズの担当者はそうではなかったという。中村社長はこう言う。「具体的で客観的かつエモーショナルな施策の数々、献身的な姿勢に社長として胸を打たれた。単なるPRのアドバイスを超え、一緒にやってくれるという仲間意識が当社の中に芽生えた」

岡田の目指したPRの形はこうだ。「まるでインハウスのような広報を実現する」——。広報の重要性を知れば知るほど「クライアント企業の中で仕組みを作ることこそ価値がある」と思った。「NWCに頼らなくても広報として自走できるような組織作りのお手伝いがしたい」

もちろんクライアント企業内に入って行くからにはインハウス同様に「遠慮せずにはっきり物を言ってもらわなければならない」(中村社長)。「そういうこともNWCはしてくれた。単なるお客さんやクライアントの扱いで止まるのではなく、よりよくするために率直な意見を言ってくれた」

一方社内に対しては、まだ不満もある。「情報を出す各事業部の現場が、PRの大きな価値をよく理解してほしい」

可能性を考える組織になってきた!

「菱洋エレクトロは宝の山です」というのはネットワークコミュニケーションズの岡田だ。例えばこういう話があった。とあるスポーツリーグのスポンサードを持ちかけられた。金額は数千万円規模だ。「これは難しい」と中村社長は思ったという。「今回は諦める。もうちょっと儲かってからにしよう」

しかし、マーケティング・コミュニケーション推進部は諦めなかった。リーダーの女性を中心に音頭をとって「社長が諦めているかもしれないけど、いいチャンスじゃないか」と彼女たちなりに検討していたのだ。

「普通だったら社長が言っているからいいや、これで終わりなんですよ。逆に言うと社長がやるって言ってるからやる」(岡田)。

「びっくりした、ここまで会社が変化しつつあると知って感動した」と中村社長。かつてならコスト面から反対しそうな管理本部の上席取締役も「社長がノーと言ったらノー、イエスと言ったらイエスで今まで来ましたけど、本当にこれがいいかのかどうか、改めて検討させてください」と言ってきたほどだ。

100年後の菱洋を決めるPRの仕事

菱洋エレクトロではいよいよ2019年2月から勝負の3年間、次期中期経営計画が始まる。

近年ではドイツのミュンヘンに欧州初の海外拠点を開設。ドイツの主要産業である自動車分野やインダストリー4.0(第4次産業革命)に代表される製造業分野の新商材や先端技術を見つけ出さなければならない。

「3年間で菱洋が成功できなければ、買収されるかもしれない。逆に菱洋ならではの存在感を放っていれば、その先の5年10年100年というのを展望できるようになる。当社の未来はこの3年でほぼ間違いなく決まるわけです」

従って、こうした状況や製品・サービスの価値を伝えていくという意味は重要だ。「PRの重要性は大きくなることはあっても減ることはない」

菱洋は2020年に向かって動き出している。「2020年代を来年迎える2019年はキチッとした準備、さらに一部では飛翔し始めておかないといけない。2020年になってからじゃ遅いんだ。PRに関しても同じ。いい発信ができるようにNWCには引き続き忌憚(きたん)のないアドバイスをしてもらいたい」

中村社長は最後に「菱洋もNWCも世間的には黒子。でもその黒子の中で菱洋やNWCを選んでくれるというのがうれしいね。黒子選びはいくらでもできるけど、大切なのはこの黒子にしようってい思っていただけるかどうかなんですよ。だって、主役はお客さまですから。どこの商売でも一緒だと思うんですよ」と話した。


(完) インタビュー 2019年1月上旬