成功するベンチャーが必ず持つ「熱量」――を伝えるキーマンは誰だ?


セーフィー株式会社の小室 秀明 CMO

ベンチャーがブレイクするかしないかの違いは正に「熱量」だ――。この熱量を周りにいるスポンサーやパートナー、さらにメディアといったステークホルダーに余すところなく伝えることで、その熱量に当てられたステークホルダーたちが思わず支援したくなる、というストーリーがベンチャーにとって理想だろう。キーマンは広報担当者だ。

広報の力不足を感じていたのがセーフィー株式会社。クラウド型のセキュリティカメラサービスを提供するベンチャーで、2017年9月には10億円規模の調達も成功している。そんな中、小室秀明CMO(最高マーケティング責任者)は佐渡島隆平CEOに「広報を何とかしたい」と訴えていた。

「熱量」ある広報担当の育成が急務だった

当時、セーフィーが広報に抱えていた課題は、セーフィーという企業が持つ「熱量」をそのままメディアに伝えられる広報機能を構築できていなかったことだ。会社の規模が大きくなるにつれ、小室氏たちが関係するメディアに直接アプローチすることはもうできなくなってしまった。そもそも広報の担当者すらいなかった。

もちろん別のPR会社に依頼したこともあった。ところが「ちょっと相性が良くなく」て取りやめてしまったという。熱が冷めた、作業的なプロモーションをされてしまったことも原因だ。

「『そうじゃないんだよ』と感じた」と小室氏。「自分や佐渡島CEOの分身のようにその熱量を持ったまま動ける広報がいないとダメだ。やはり社内に広報担当者を入れよう」と決定したのも当然だった。

念願の広報担当者である鈴木章子氏がセーフィーに入社したのはそのころ。ただその鈴木も「前職で広報をやってはいたんですが、そんなにしっかりとはやったわけではなかったんですよ」ともらす。例えばメディア各社の記者へのアプローチも簡単ではない。広報は“特殊業務”だ。担当が決まったからといってすぐにできるわけでもない。端的に言って、いきなりの広報担当者が海千山千の記者たちといい関係を築けるのか、という問題もあった。

セーフィー株式会社の小室 秀明 CMOと広報担当の鈴木 章子氏

「広報経験がまだ浅かった鈴木を、一流の広報マンにしないといけない。さらに熱量が伝わる広報ができるようにならないといけない」と小室氏は決意していた。「僕が佐渡島に『広報PRを何とかしたいんですよね』と相談したら、岡田さん(岡田 直子、ネットワークコミュニケーションズ代表)を紹介してもらいました」という。

ネットワークコミュニケーションズ(NWC)の担当者である武田 由紀はこう言う。「スタートアップで伸びる会社はみんなそうだと思うんですけど、ブレイクするかしないかの違いは正に『熱量』ではないかと感じます。周りにいるスポンサーだったり、協業相手だったり、メディアの人たちだったりが、その熱量にやられて支援したくなるのが成功する流れ。私や岡田がセーフィーと一緒に仕事をしたいと強く思っていたのは、小室さんや佐渡島さんの話を聞いて『やられた! この会社、絶対成功する』と感じたからだったんです」

他人の製品を「かわいい!」と伝えられるか

NWCの武田 由紀

武田のこうした反応は、苦い思い出のある小室氏にとってありがたかった。「別のPR会社にお願いして記者会見をやったんだけど、その時の担当者が全然熱量がなかったんですよね。淡々と仕事をこなすタイプで、記者への連絡はしてくれるんですけど……。会社の名前でアポとれているだけで、その担当者がどうしたいかが全然なくて『これがPRの仕事なのかな』って思うくらい」(小室氏)。

それは2017年に行った記者会見のことだ。世界的な企業との取り組みを伝え、セーフィーがオープンプラットフォームであることを示す、同社にとっては一大イベントとなる発表だった。小室氏らは「一段ステージが上がるPRをしていたのですが、PR会社がとても受け身で、あれやりたいこれやりたいと伝えても『フーン、フーン』という感じで取り合ってくれませんでした。きっとスケジュール的な制約やネタの強弱を懸念してチャレンジしたくなかったんでしょうね」と言う。

特に企業イベントや記者発表は業務をこなしたことが重要ではなく、そのイベントの目的を果たして初めて成功だ。

PRの専門家になればなるほど「記者発表目前のタイミングでそんな要望を言わないでくれ」「こんなに弱いネタで記者が集まると思うな」と思いがちだ。特に外部のPR会社は無難な方向で請け負いたいのかもしれない。ただし――と武田が続ける。

「そう言って断って、私たちのような外部のパートナーは契約を打ち切られるかもしれませんが、その結果、目的が達成できなくなってクライアントも痛手を受けます。だからこそ、そのイベントや記者発表の目的達成のために責任を取れる範囲を見極めた上で動くことが、私たちを選んでくれたクライアントのためにもなるんです」

結果的にそうした責任感が“熱量”の源泉になっている。「熱量を共有できるPR会社は本当に少ないんですよ。同じ熱量で、寄り添ってくれるというか伴走してくれるというか。なので僕はNWCにそこを一番期待していた。だから一緒に仕事したいと思ったのです」(小室氏)

武田のセーフィーPRのエピソードを紹介しよう。ネットワークカメラの新製品のキャラバンで、武田はおもむろにカバンからその新製品を取り出してこう言った。「このカメラ、かわいくないですか」。ネットワークカメラはどちらかと言えば業務よりの製品で、比較的武骨な印象だ。それをかわいいと言い切った。

このカメラ、かわいくないですか?
おそらく武田の本心だったのだろう。小室氏は「この一言にすべて集約されていました。自分たちのプロダクトであっても、ああはなかなか言えない。それを記者の人たちの面前でいったわけですから、これはすごい大事なことですよ」。

武田も「感覚は“自分のプロダクト”ですからね」という。「そこなんです! 第三者なのに1人称で語れる当事者意識を僕ら以上に持ってくれてること。例えばメディアに説明しに1社1社回っていたとき、僕は話す用意をしていくわけです。武田さんが頭出しだけして『ここから小室さん、よろしくお願いします』と言われると思ったら、武田さんが30分くらいしゃべっているんです! 『え、俺の出番ない?』みたいな」(小室氏)

広報担当者の成長は「短期的な成果ではなく、長期的な資産」

こうした武田の“熱い”姿勢は当然、広報担当者の鈴木氏にも影響した。「前の会社で広報をやってはいたんですけど、そんなにがっつりした感じではやっていなかったんです。武田さんには広報のお作法から記者との関係をどう築くかなどを全部教えてもらい、とても勉強になりました。記者さんとのリレーションも入社時は数人だったのが圧倒的に増えました」

鈴木氏の成長も目覚ましかった。当初は「佐渡島さんからこういうアプローチをしたいと相談を受けているんですが、どうすればいいでしょうか」と武田に質問していた。少しすると「こう動こうと思うんだけどこれであっていると思いますか」と確認するだけになり、そのうち「社内で反対意見があるんですけど、これが正しいですよね」と信念をもってディスカッションできるようになった。

「(武田から)ヒントをいっぱいもらったので、自分でなんとなくこっちじゃないかなって思うことをちゃんと明文化できるようになりました。いろいろ教えてもらったおかげです」(鈴木氏)

「鈴木さんが『こうするべき』と思うことを、私たちPR会社が話を聞いてアドバイスしたりフォローしたりするだけでも、私たちの存在価値があるんだなと気づきました。こちらがでしゃばらずに聞き役に徹することで広報担当者の鈴木さんがしっかり動けるようになった。鈴木さん、最初にお会いした時とまるで別人のようにバージョンアップしたと思っています。実際(セーフィーを担当していた期間の後半)私はほとんど何もしてないんですよ」(武田)

「広報がなかったところから、NWCはちゃんと広報部門を立ち上げ、広報マンの教育というところをやってくれた。企業の広報としての力を上げてくれたっていうところは短期的な成果ではなく、長期的な資産として残る部分じゃないですか、そこが一番ありがたかった」(小室氏)

 

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セーフィーでは今後、APIやSDKなどの開発ツールのオープン化を進め、開発者ネットワークの構築を目指している。開発者を集めてアプリケーションを増やし、ユースケースごとのアプリを打ち出していくことを目論んでいる。


(完) インタビュー 2019年1月上旬